与那国島と与那国馬

与那国島は日本最西端の有人国境離島です。東京からは約1900kmの距離ですが台湾とは約110km。私には経験はありませんが、年に数日、台湾が望めるようです。島の東の端、東崎の広い草原には与那国馬が放牧されています。他品種との交配や品種改良が行われたことがない、固有種とのことです。昔は農耕馬、今は観光用で来島者も見ることができますが、生き物の自然の姿、厳粛な時間の流れに感動さえ覚えます。                                    与那国島の人口は約1700人。中には約250名の自衛隊員とその家族が含まれます。与那国ブルーの海と与那国グリーンの草原、Dr.コト―が自転車を走らすパラダイスのような島ですが、日本の防衛の前線基地でもあり、南方アジアへのゲートウェイでもあります。与那国空港は小型プロペラ機が離着陸するですが、中型機B737も使用可能な長さ2000mの滑走路を持ちます。

コロナウイルスパンデミックにより従来の観光が見直されています。ワ―ケーションで日本中いやアジア・世界中から与那国島に移り住んだ人々が、仕事の合間に与那国馬のいる東崎に自転車を走らせ、週末には他の八重山諸島、さらには台湾へ気軽に週末旅行をする賑わいも夢ではありません。

Dr.コト―が自転車で走る姿が見えるようです。

 

残酷な画像です。与那国馬はこの草原で生まれ、生き、骨になって土に還ります。
与那国馬

対馬・和多津美神社

長崎県対馬にある和多津美神社。彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)と豊玉姫命(とよたまひめのみこと)を祭る海宮として有名です。本殿正面の5つの鳥居のうち2つは海中にそびえていました・・。「いました」と過去形なのは令和2年9月の台風10号により一の鳥居(一番海側にある海中鳥居)が倒壊したからです。昨年11月、私は海から倒壊した一の鳥居と和多津美神社を見ることができました。クラウドファンディングにより想定以上の資金が集まり、鳥居の復旧作業が始まるとのことでした。竜宮伝説が残る神秘的な境内は一見の価値があります。

 

国境の島・対馬

私は2017年よりボーダーツーリズム推進協議会を組織して活動しています。ボーダーとは国境、ツーリズムは観光・観光産業なので国境・境界地域の観光をテーマとした組織です。当該地域にある自治体、大学・研究機関、観光関連会社などが正会員として活動をしています。また多くの個人会員も会の運営を支えてくれています。協議会の活動は公式ホームページがありますのでぜひご覧いただき、ボーダーツーリスト会員として(会費などはありません)ご登録をいただきたいと思います。

https://www.border-tourism.com/

ボーダーツーリスト会員には定期的にメルマガをお送りしています。今日は2021年最初のメルマガに掲載した私の対馬訪問報告をご紹介いたします。

2020年11月初旬に長崎県対馬へ行って参りました。対馬は国境の島、日本のボーダーツーリズムの中心の地域であり、当協議会の正会員です。その対馬へ2004年、ANAから社員を送り込むことになりました。今では盛んになっている地方創生人材支援制度の先駆け的な取組でした。対馬市役所にはベテラン社員が派遣され、当時ANAグループの旅行会社に勤務していた私はその社員の意向を受けて東京サイドでお手伝いをする役目を仰せつかりました。対馬名産の「しいたけ」を使った料理を東京や大阪のANAホテルで提供する取組みや万葉集・防人の歌をテーマとした旅行の実施のために何度も訪れ、対馬とのお付き合いが深まっていきました。その後もボーダーツーリズム関連で韓国人観光客で賑わう対馬に何度かお伺いしました。今回は2018年秋以来の訪問でコロナウイルスの影響を調査し、対馬観光のアフターコロナ時代への準備・展望を市役所の方からご教授いただくことが主な目的でした。2日間の短い滞在ではありましたが、その報告を簡単にさせていただきます。

(1)変らぬ観光資源の魅力  浅茅湾、韓国まで見渡せる展望台、和多都美神社など対馬の観光資源の魅力は不変でありそのONLY-ONEの観光資源はアフターコロナ時代でも訪れる旅行者を魅了することを改めて確認しました。

(2)韓国旅行者中心から新たな展開へ  2018年に41万人を超えた訪対馬韓国人ですが、2019年に日韓政治問題(ボイコットジャパン運動など)により大きく減少しました。そして今回のコロナウイルス禍により2020年3月7日より釜山-対馬間の高速船の運航が中止となり韓国人旅行者は島内から姿を消しました。未曽有の対馬観光の危機ですが、対馬市役所が中心となってコロナウイルス感染対策を徹底しながらも韓国人以外、つまり日本人観光客、台湾などのアジア地域からの観光客誘致等に乗り出しています。とは言え世界中がコロナウイルス禍であり、まずは「おもてなし協議会」を設立し島内観光の“おもてなし”を見なおす取組から始めたようです。41万人を超えた訪対馬韓国人は対馬に79億41百万円(2018年)の観光消費をもたらしましたが、一方ではオーバーツーリズムとも言われ対馬地域社会に波風も立ちました。また日帰り客も多く、自由に観光して帰っていく韓国人観光客への“おもてなし対応経験”だけでは日本人旅行者や旅慣れた台湾人観光客には通用しない、との危惧もあったとのことです。現時点ではすぐに海外から旅行者が訪れる状況ではありませんが、今は階段の踊り場に立っているようなものなので、次の階段を上るためにも大事な取組かと思います。一般社団法人対馬観光物産協会のスタッフのお話では「対馬ガイドさんは韓国語ができるが、英語ができるガイドは少ない。これも今後の課題」と話していました。対馬ならではの状況です。また特筆すべきは国内旅行の取組です。対馬市は有人国境離島に指定され、領海、排他的経済水域等の保全等に関する活動の拠点としての機能を維持することを目的とした交付金があります。その交付金には観光振興を行う予算があり、対馬市では日韓問題で韓国人旅行者が激減した2019年から日本人旅行者を対象に「しま旅」に補助金を付ける事業を行っていました。その補助金に加えてコロナウイルス感染症対策のGotoトラベルキャンペーンの割引が加わりました。この格安なツアーは旅行会社を通じて販売され、8月には2,170名(前年の14.6倍)、9月で2,773名(前年の3.3倍)と多くの日本人観光客を集めています。私が最近定宿としている厳原にある東横イン、以前は韓国にいるのか、と錯覚するくらい韓国人観光客でいっぱいでしたが、先日は多くの日本人旅行者で賑わっていました。もちろん宿泊総数あるいは福岡-対馬の航空路線の搭乗客総数はコロナ前より大きく減少していますが、韓国旅行者依存からの脱却には寄与し、取組んでいる「おもてなし」改革を進めていく機会にはなっていると思います。

(3)対馬観光に取組む若い人たちの台頭・活躍   今回私たちを半日ガイドしてくれた対馬観光物産協会の若いスタッフは対馬出身でUターン組でした。「韓国人観光客40万人時代に慢心があったのと思う。ホスピタリティも低下していた。これからが勝負です。」と明るく話をされていたのが印象的でした。また浅茅湾クルーズでは老舗の会社にお願いしましたが、ガイドをしていただいたスタッフも若い方でした。持続的な観光活性化の道を歩むためにも若い方の台頭・活躍は真に嬉しく、対馬観光の将来に希望の光を見出すことができました。

コロナウイルスパンデミックで大都市集中のデメリットも露呈し、オフィースへ出勤という今までの常識にも変化が見られ、リモートワークやワーケーションが新しい日常になろうとしています。対馬でワ―ケーション、週末には高速船で1時間の釜山へ観光・食事という新しいマイクロツーリズムも夢想した次第です。

11月21日にはTBS系のテレビ番組「世界ふしぎ発見!」で対馬が紹介されました。同番組はボーダーツーリズムに関心を持っていただいており2018年にはボーダーツーリズムの冠を付け、台湾・八重山を取り上げてくれました。今回は対馬を国境の島と紹介し、金田城などの素晴らしい観光素材とともにアメリカ発の大ヒットゲーム「Ghost of Tsushima」の舞台であることを紹介してくれました。アフターコロナの時代には世界中から“聖地”を目指す旅行者が増加することが期待されます。また出入国管理機能がある「対馬やまねこ空港」へのアジア各国・地域からのチャーター便就航も市役所では計画しており、我々協議会にも福江五島⇔韓国済州島に次ぐチャーター便の就航を期待している、とのコメントもいただきました。今回の対馬訪問はアフターコロナウイルス時代のボーダーツーリズムの新しい展開について自治体の皆様、関係者の皆様と考えていく“契機”となりました。

対馬海峡のアナゴは対馬にも釜山にもあがりますが、対馬のアナゴは「黄金穴子」と呼ばれてより太くて美味です。対馬は魅力満載の国境の島です。

伊豆芳人