JIBSN・境界地域研究ネットワークセミナー2022参加記(2)

石垣島内ボーダーツーリズムツアー
翌19日(土)も快晴。午前中は、石垣島内ボーダーツーリズムツアー。八重山毎日新聞の元記者で現在も沖縄や台湾で活躍するフリージャーナリストの松田良孝さんがこの日のために企画した行程を回る旅です。名付けて「石垣島で台湾を歩く」。石垣島・八重山と台湾との双方向的な人の移動、八重山の産業資源となっているパインや水牛を持ち込んだ台湾人の足跡などを訪ねる旅でした。
午前8時、スタートのユーグレナ石垣島離島ターミナルで参加者約40名が大型バスに乗り込みました。中には石垣島在住数十年、ボーダーツーリズム推進協議会のよき理解者である赤城暁さんの姿も。まずは石垣島の地形を把握するために「南の島展望台(バンナ公園)」へ。展望台から見渡すエメラルド色の八重山の海は美しい。個人的には石垣島・小笠原・鹿児島県入来・岩手県水沢の4カ所にある直径20mの望遠鏡を組合わせ2300km の望遠鏡として天の川を撮り立体的な地図を作るという壮大な VERA プロジェクトの一つを遠望できたことに感動。それも同プロジェクトを構成する小笠原村の村長と肩を並べながらです。
次はバンナ公園近くに建つ「台湾農業者入植顕彰碑」へ。建立から10年。台湾からパインや水牛を八重山にもたらした先駆者、ある意味で恩人を顕彰しているのですが驚くほど最近の建立なのです。複雑な歴史もあったのでしょう。
バスは「大同」というバス停の前に駐車しました。時刻表を見るとバスは日に2回しか通いません。小道に入ってくとすぐに「大同拓殖パイン工場跡/日本パイン産業発祥の地」という碑がありました。説明文を読むと大同拓殖グループが募集した農民とともに入植したのが昭和10年(1935年)、パイン工場を作り、初めて缶詰1000箱を製造したのが昭和13年(1938年)。そして沖縄戦で工場は消失とありました。ここでも様々な歴史があったことを思いました。バスの通りに戻る時に小道の入り口を見ると草むらに隠れるように「日本パイン産業発祥の地」を示す木製の標識がありました。石垣島在住数十年の赤城さんも「初めて来ました。」と感慨深げでした。
その後、台湾系住民の信仰、集会の場でもある土地公廟「福徳廟石垣島」、松田さんの計らいで台湾出身者が今も住む家で台湾風の暮らしぶりを見学して約3時間半の短いながらも充実した“内なるボーダーツーリズム”を終えました。
松田さんの言葉を借りれば「島はひとつの“色”で塗りつぶすことはできない。」(八重山毎日新聞・2022年11月21日)

この旅で石垣島に台湾とのグラデデーションを見ることができました。それは他の国境・境界地域でも同様に見ることができる内なる国境境界地域特有の色なのでしょう。ボーダーツーリズムの旅が唯一無二の旅である理由もそこにあります。

台湾農業者入植顕顕頌碑
VERA プロジェクトの望遠鏡

JIBSN・境界地域研究ネットワークセミナー2022参加記(1)

11月の八重山は台風も雨も少なく平均気温も23℃前後と快適。旅行代金も夏のシーズンよりも割安なので八重山ツアーのベストシーズンとも言われています。若者の小グループ・家族連れ・修学旅行・中高年の団体ツアーなどの幅広い客層で石垣空港へ向かう航空便は混雑する時期でもあります。とは言え、八重山地区の観光もコロナ禍で約2年半停滞。今年2月に訪れた時には搭乗便も閑散としていましたが、今回はどうだろうか? そんな思いで秋深くなった羽田空港から直行便で石垣空港へ向かいました。11月18日(金)、搭乗便は満席。石垣島に到着すると“かりゆしウェア”がまだまだ似合うほど陽光が眩しく、八重山の小さな島々を小さな貨客船で結ぶ拠点(ハブ)であるユーグレナ石垣島離島ターミナルでは、石垣島の大スター具志堅用高さんのモニュメントで記念写真を撮る観光客が列を作っていました。島々へ向かう船を待つ若者、戻ってきた船から降りてくる若者たちの笑顔からは、コロナ禍から脱却しつつある八重山観光の“明るさ”も実感することができました。

 今回の旅の目的はJIBSN・境界地域研究ネットワークのセミナー2022への参加。セミナーのテーマは「危機のなかの境界地域」。コロナ禍で露呈した脆弱な医療体制、ウクライナに侵攻したロシアと国境を接し、尖閣諸島問題の最前線でもある日本の境界地域は真に「危機のなか」にあります。その重いテーマを語りあう会場は、陽光が眩いユーグレナ石垣島離島ターミナルに程近い新築間もない竹富町役場。今回は2019年の北海道礼文町での開催以来3年ぶりの対面開催となりましたが、ホスト役の前泊竹富町、糸数与那国町長、工藤稚内市長、渋谷小笠原村長、特別ゲストとして中山石垣市長などの首長を始め、五島市からは副市長、礼文町・根室市・対馬市(比田勝市長はリモート参加)・標津町から自治体関係者が出席。その他大学や研究機関のスタッフ、そしてボーダーツーリズムファンの皆様も多数参加されました。

 

*境界地域研究ネットワークジャパン(JIBSN)
http://borderlands.or.jp/jibsn/