「比較する」面白さ

沖縄の聖地である斎場御嶽(せいふぁうたき)を初めて訪れたのは1995年ころでした。バブル崩壊後の低迷する沖縄観光に新しい観光テーマを作り何とか回復させたい、という思いで企画したツアーの添乗中のことでした。

そのテーマは「歴史」。首里城などの「グスク及び関連遺産群」が世界遺産に登録される前の事でもあり、取り上げる時代によっては大変難しいテーマ。選んだ題材は”琉歌と万葉集”の比較、”大和人と琉球人との精神性”の比較でした。残念ながら早逝された琉歌研究の第一人者、故嘉手苅千鶴子さん(元沖縄国際大学教授)と万葉集研究の大家、中西進さん(文化勲章受章者・元号「令和」考案者)が講演会場で繰り広げた万葉集と琉歌の比較、特に詠み人の精神・心の共通点にたどり着くまでの展開は100人を超える旅行参加者の知的好奇心を大いに刺激したと思います。そしてツアーの行程で訪れたのが斎場御嶽。今はパワースポットとして沖縄の観光名所ですが、当時は観光バスが近づくことも難しく、亜熱帯の植物がおい茂りヤドカリなどが住む処でした。遥拝場所からは天孫降臨伝説のある久高島を遠く望むことができました。

久高島と斎場御嶽を結ぶ線をさらに真っすぐに伸ばすと琉球王朝時代の大城だった首里城があります。アマミキヨという女神とシネリキヨという男神による国作り神話があり、15世紀頃の尚真王の時代には重要な神儀は斎場御嶽で行われていた伝承もあります。まるでイザナギとイザナミによる国づくり、天皇の名代として伊勢神宮に仕えた斎王にも通じ、琉球王朝の正統性を作り上げた過程での日本との交流を知ることができます。一方では中国・明時代(1368年~1644年)の対明朝貢回数は琉球王朝が第1位で171回、日本の19回、朝鮮半島の国々からの30回と比較しても圧倒的に多いとの資料があります。超大国・明に貢物を捧げることで自治権を維持する外交も怠っていなかったのです。まさに万国津梁の精神であり日本とは全く違う歴史を歩んでいた沖縄を改めて学ぶ必要もあるのではないでしょうか。

「比較する」面白さはボーダーツーリズムにも共通します。「比較する」ことにより”違い”や”共通点”を知り、現在の国境線が引かれる前の歴史や交流にも思いをはせることができます。

16世紀末から17世紀初頭の琉球王国を描いたNHK大河ドラマ「琉球の風」(1993年)のロケ地の碑。与那国島にあります。

 

 

 

 

 

 

2021年3月13日