ボーダーツーリズム(国境観光)佐渡島

佐渡島との出会い

私が初めて佐渡へ渡ったのは1980年代初めの頃。佐渡を旅行商品化するための出張の旅でした。もちろん当時も佐渡島への航空機の就航はなかったのですが、新潟空港と千歳・福岡などを結ぶ路線の需要喚起のために佐渡ツアーを企画しようという目論見でした。遠い昔なので詳細な記憶はありませんが、まだ存在していた羽田から仙台への便に乗り、さらにこれも当時はジェット機で運航していた便で新潟空港へ向かいました。当時は航空自由化の前。今以上に旅行商品が路線の需要喚起の手段として重要だった時代だったので新潟路線を旅行商品で何とかしよう、という試みだったように思います。

楽しみだったのは新潟から佐渡まで乗るジェットフォイル。航空機と同じでボーイング社が製造し、佐渡汽船が日本で初めて導入したBoeing Jetfoilでした。新潟港から両津港まで1時間少々。沖縄の島々での企画を活かして航空会社らしい若者にターゲットを絞ったツアーにしよう、と意気込んで下見をしたことを思い出します。新規需要の喚起が目的だったので、たらい船体験などの人気の観光素材はあえて組込みませんでしたが、下見で印象に残ったのは金銀山。V字に割れたような露天掘りの山の姿に人の欲の凄まじさを感じました。そう言えば緯度や経度で決められたアフリカの国境線も直線が多いです。人の手がかかると直線になるのでしょうか。また鉱石処理を行った北沢浮遊選鉱場跡はまるでアニメ「天空の城ラピュタ」のようです。

残念ながらその時の佐渡ツアーの成果は少なく、新潟と仙台を結ぶ路線は廃止になってしまいました。最近になって新潟空港を拠点とするトキエアが今年4月には仙台に就航するというニュースがあり、楽しみにしているところです。

「島 日本編」

「島 日本編」という大変面白い本があります。(講談社・2004年発行)執筆者のおひとり長島俊介さんは世界27カ国1650島を訪れたという「島達人」と紹介されており、日本国内にある400以上の有人島全てを訪れた島研究の第一人者です。私はお会いしたことはありませんが、2018年4月から2019年3月まで毎日新聞「日曜くらぶ」に全51回掲載されたコラム「ボーダーツーリズム/旅するカモメ」への寄稿をお願いして「佐渡島」を書いていただきました。

「島 日本編」は旅人から見た島の魅力だけでなく島に住む人が何を求めているか、を紹介している貴重な現地レポートであり、執筆者たちが撮った画像も満載で飽きることがありません。

国境の島・佐渡島

長島俊介さんの出身地は佐渡島です。佐渡島はご承知の通り、沖縄本島に次いで大きな島です。日本海に浮かぶ佐渡島の対岸にナホトカ(ロシア)がありますが、その距離は約700㌔あるので見ることはできませんし、旅客航路もありません。しかしながら古代には大陸との交流があったことが日本書紀に記載されており、佐渡島は大陸との交流のゲートウェイでもあったようです。前述の長島さんのコラムや「島 日本編」には大化の改新前に漂着した沿海州人が持ち込んだ毛皮が官位を表す装束基準の基礎になったこと、佐渡国分寺(今は国指定の跡)は大和政権の北限だったとも記載されています。時空を超えたボーダーツーリズムの魅力が佐渡島には溢れているのです。また対馬など日本海の島々には日本海海戦で亡くなった日露双方の兵の慰霊碑がありますが、佐渡島にも漂着したロシア人水兵の墓があり、今でも北朝鮮漁船の漂着が続いているそうです。それが国境の島の現実でもあります。

海流の力

私は古代の交流において海流が果たした役割は大変大きいと思っています。人力は非力、風は気まぐれです。佐渡島には海流に乗って、日本列島の北から南、そしてユーラシア大陸の人々がたどり着いたことでしょう。これも長島さんのコラムからの引用ですが、佐渡島の伝統芸能である佐渡鬼太鼓、男鹿半島のなまはげ、能登の鬼刀鍛治伝説など日本海岸の鬼は渡来人との関連が指摘されているそうです。

南方から北上してくる暖流・対馬海流は対馬で南北に分かれて日本海を進み、佐渡島から間宮海峡に達します。またシベリア、アムールから南下してくる寒流・リマン海流は日本海で対馬海流と合流しています。遥か南方からの文化、そしてオホーツク文化が海流に乗って、佐渡島など日本海に浮かぶ島島や日本海沿岸地域にもたらされたことでしょう。

南北からの海流は佐渡島に豊富な海の幸ももたらしています。鰤は成長しながら日本海を北上し、北の海で餌をたくさん食べて秋に南下を始め、一番脂ののった時期に佐渡沖で漁獲されます。寒鰤は佐渡沖から始まると言われる程です。春のヤリイカから始まり、岩牡蠣・鮑・栄螺……。私は佐渡島を訪れた時、何度も訪れた新潟市で堪能させていただきました。佐渡島は観光資源が豊富ではありますが、「海の幸」は特筆されると思います。

いやいや佐渡島だけでなく国境地域はどこも食の宝庫。同じ海から上がった魚の料理方法を比べてみることもボーダーツーリズムの魅力のひとつです。