健康と温泉フォーラム

2021年10月27日に開催された特定非営利活動法人「健康と温泉フォーラム」の第100回記念月例研究会にて講演をさせていただきました。その概要を掲載します。

1.ツーリズムにおけるコロナ禍の状況について

世界の航空会社は2020年1月、提供席数と搭乗実績(席数×距離)ともに2019年比100%を超えてスタートしました。そこに世界中でコロナ禍が始まり、世界中で一斉に状況は悪化し、底は4月でした。2020年4月は2019年同月比で提供席数12.4%、搭乗実績で5.7%、国内線をを含めて交流が止まってしまいました。以降、各国政府の政策、航空会社や空港などの工夫により徐々に回復はしていますが今年の8月の段階でも提供席数で53.8%、搭乗実績は44.0%と2019年の半分程度の回復でした。やはり国際線が復活していないことが理由ですが、過去のイベントリスク、例えば9.11米国同時多発テロ、イラク戦争、リーマンショックなどでも大きく数字を落としましたが、多くの場合、影響は1年、翌年V字に近い回復をしており、約2年もの間、航空需要が低迷を続けているコロナ禍は100年に一度、破格のイベントリスクです。収束の見通しは未だ立っておらず、国際線を含めてコロナ禍前に戻るのは2024年という予測があるように、各地の温泉地としても訪日観光客に期待することは当分難しいのではないでしょうか。

国内線だけの今年8月の状況を見ると、世界各国の平均の搭乗実績は2019年比で67.8%と国際線よりも回復基調にあります。日本は搭乗実績40.2%と世界の平均から見ると低い数字ですが、8月は1日感染者が2万人を超える日もあり、緊急事態宣言中で外出自粛だった時なので当然な数値かと思います。一方アメリカは2019年の数字に近くなっていますし、欧州、特にロシア国内線は2019年を上回る搭乗実績となっています。これはwithコロナ政策を打ち出した結果ですが、最近のロシアのコロナ感染者数の急増は周知の通りです。コロナ禍が始まった時、航空輸送は世界中で一斉に状況は悪化しましたが、回復についてはワクチン接種率、マスクの習慣、国毎の生命の安全・健康と経済活動の政策の違いが色濃く反映していることがわかります。

長崎県対馬市のコロナ禍の状況です。対馬にもなかなか良い温泉もありますが、国境に位置する特性を生かして観光の活性化をするボーダーツーリズムに取組んでいる、有人国境離島のひとつです。福岡まで124キロですが韓国・釜山までは50キロの距離で、2018年、日本人来島者は約15万人ですが、40万人を超える韓国人観光客が来島しました。しかしながら2019年の日韓関係悪化・ボイコットジャパンで半減しコロナ禍で2020年3月から今日まで韓国人観光客はひとりも来ていません。対馬は2つのイベントリスクに見舞われています。す。しかしながら対馬市の累計の感染確認者数は累計34名と極めて少なく、昨年の7月まではコロナ感染者0の島でした。またこの1年10カ月、大都市圏では毎日感染者が報告されていますが、対馬市で感染が確認された日数はわずか16日のみなのです。このように対馬市はコロナ感染を最小限に止めましたが、観光は大きな損害を受けたわけです。コロナ禍の特徴のひとつは、日本中、世界中が被災地であることで、例えば大きな自然災害を被った被災地へ支援ツアーなどで応援する、従来型の被災地支援ができないことでもあります。

以上、新型コロナウイルスパンデミックのイベントリスクとしての影響の大きさについて、3つの視点で報告をさせていただきました。

2.ワ―ケーションについて

 さて私が言うまでもなく、新型コロナウイルスパンデミックの影響で一番大きな特徴は「人々の生活様式や価値観への影響」です。一気にリモートワークが普及したわけです。これはコロナ禍が収束しても残って行く生活様式、価値観だと思いますが、そこにワ―ケーションの可能性が高まってきたわけです。以下は私の仲間、スタッフたちのワ―ケーションについての意見です。

「温泉地でのワ―ケーションをどう思うか?」については、「半日集中して仕事をして疲れたら散策、温泉に入る1日は最高」だという意見もある一方、「行ったことがない温泉地がワ―ケーション候補として選ばれることは稀ではないか」、「過去に行ってとても良かった経験によってワ―ケーションの地として選ばれるのではないか、つまり「まずはプライベートでその温泉地自体を好きになってもらう、ファンになってもらうことが大事」ではないか、という意見が印象に残りました。 次に温泉地でのワ―ケーションのターゲットとしては「20代後半~30代前半の独身あるいはフリーランスの家族がターゲットになりやすい」「温泉地から近い都市部で働いていて且つリモートワーク可能な職種の人が第1のターゲットになるであろう。マイクロワ―ケーションが最適か?」、「花粉が飛ばない温泉地であれば花粉症の人をターゲットとした春先に時期を絞った一時的な花粉症退避プランは受けそう」だという面白い意見がある一方、「サラリーマンの場合そもそもリモートが定着している企業ではないとワ―ケーションはしない」「家族連れなら温泉地にはワ―ケーションではなくバケーションで行きたいと思うのではないか」特に「遠隔地の有名な温泉地に行くとしたら仕事ではなくレジャーで行きたいと思う人が多いのではないか」という意見が多かったです。向いている職種としては「企画プランナー、開発関連の職種、営業職やクライアントワークの職種は難しいのではないかという意見。また温泉地の旅館やホテルに用意しておいて欲しいものとしては「時間制限のないWi-Fi環境」、アーリーチェックイン・レイトチェックアウトサービスなどがあり、あるスタッフは夜食を挙げていました。彼は、夜、仕事をしていて夜食を食べたくなったが、旅館でも食べられず、町に出ても店が閉まっていて「夜食難民」になったとのことでした。また半月程度の滞在となると、健康管理のためにも「睡眠の質」が大事で、ワ―ケーションには自分に合った枕を持って行くことをお勧めしたい、との意見も印象的でした。

ワ―ケーションはアフターコロナにおける観光再生計画の中心にも据えられてもおり、環境省が推進する新・湯治プランのメニューにも適しており、温泉地の活性化に寄与するものと期待されてもおります。温泉地は環境としては、温泉・自然・地元の食材など、ワ―ケーションには大変良い環境であり、ワ―ケーションプランを実施している温泉地のホテル・旅館内のワーキングスペースは快適だという高い評価で共通していました。しかしながら、リモートワークを多くの人が経験したとは言え、温泉地でワ―ケーションを定着させるには いっそうのマーケティングや準備が必要な気もしております。

私が言うまでもないことばかりかと思いますが温泉地でのワ―ケーションについて簡単に報告をさせていただきました。