○○ツーリズム

○○ツーリズム。○○でツーリズム(観光)の新しい需要を創造する、マーケットを創造する、と私は使っています。ヘルスツーリズム、エコツーリズム、そしてボーダーツーリズム、みな同じ使い方かと思います。近年、オーバーツーリズム(観光地にキャパシティ以上の観光客が押し寄せ様々な問題を引き起こすこと)という言葉が出てきて私も混乱してしまいましたが。

観光の仕事の中で○○ツーリズムを創り上げて行く過程が一番楽しいんですよね。DMOに期待していたこともありましたが、なかなか難しいようです。観光庁はDMOを「観光地経営の視点に立った観光地域づくりの舵取り役」と定義していますが、舵取り役、つまり”ハンドル役”が必要なのは、”半端ない熱量”を持って物事を推進する”エンジン役”がいてこそです。この”エンジン役”がいるDMOといないDMOとで成果に差が出ているように思います。

観光で地域創生を実現しようという政策は「観光立国政策」が初めてではありません。1987年にたった1日の審議で成立した総合保養地域整備法。その顛末を知る観光関係者は減りましたが、あの”悪法”の痛手は深く、今もその後遺症は消えていません。通称リゾート法、国民のゆとりある余暇を提供し地域振興を図るという理念の下、環境保全の規制まで大幅に緩和し財政上の優遇措置を行いました。時はバブル経済の最中、全国で42の構想が立ち上がりました。その構想ほぼ全てがゴルフ場・スキー場・マリーナに高級ホテルがセットされ「金太郎飴」と評されていました。北海道のトマムリゾート、宮崎のシーガイアリゾート・・・。多くのプロジェクトが破綻しました。野生動物、森林など環境への悪影響も甚大だったようです。

私は42の構想の中で、多くのリゾート施設と仕事をしました。特にトマムリゾートと宮崎シーガイアとは長いお付き合いをしましが、開業日にも現地におりました。極寒のJR北海道石勝線占冠駅のホームから眺めたスキー場とホテル客室の豪華さは今でも覚えています。オープン初日には開発企業のオーナーをモデルとしたテレビドラマの撮影まで行っていました。また宮崎シーガイア、753ルームのホテルの豪華さに驚きましたが全天候型室内ウォーターパーク、オーシャンドームには度肝を抜かれました。オープニングセレモニーのゲストは80年代のロックスター、スティングでした。今思えば、プロダクトアウトの典型、バブル型プロダクトアウトだったのでしょう。この二つのリゾートだけでも紆余曲折の歴史があり、多くの人が傷つき去って行きました。

21世紀になって日本の人口問題(減少・少子高齢化)は加速、特に地方自治体は深刻でした。一方、アジア諸国は経済発展により海外旅行、日本への旅行が増加することは間違いありません。必要なのは”箱物”ではないこともリゾート法の失敗という大きな代償を払ってわかっていました。まずは査証の緩和で間口を広げ、地域重視、着地重視、住民自らが参加して魅力を発掘し磨きあげよう、それが観光立国政策だと思います。さてコロナ禍で階段の踊り場で足踏みをする観光立国への道。響きの良いキャッチフレーズに惑わされず、大きな代償を払う前に地域毎にここまでやってきたことを真摯に見直す絶好の機会だと思います。

ワ―ケーション?ちょっと待ってよ!という”エンジン役”も必要なのですね。

 

 

 

 

 

 

2021年5月20日